パンづくり
パンについて

 一説によると紀元前7000年頃、古代中央アジアで野生種の麦の栽培が始まり、アフリカ大陸からユーラシア大陸に広がりました。
 その頃の麦は、「大麦」や、現在の小麦の原種といわれている「スペルト小麦」が主な作物で、石で砕いた粉末に水を加え練って焼き、食用にしたと思われます。
 練って置いておいた生地が自然発酵し、それを焼いたものが発酵パンの始まりとされ、約6000年前の古代エジプトが発祥の地といわれています。パンはエジプトで花開き、徐々に各地に広がっていきました。その製法は、生地の一部を残して種とし、次の仕込みに使用するという方法をとっていました。乳酸菌の働きにより雑菌を押さえ、酸に強い酵母を増殖させるという製法を経験によって学び伝えていきました。その製法は、酵母や微生物の存在が知られた現在の天然酵母のパン作りと、基本的には何ら変わらないものといえます。
 ドイツの「ライサワー種」、フランスの「 ルヴァン種」、イタリアの「パネトーネ種」、アメリカの「サンフランシスコ・サワー種」、中国の「老麺」等、その国と名前はちがっても、その流れは古代エジプトより連綿と引き継がれ、発展し、現在に受け継がれています。パンの歴史は、天然酵母パンの歴史そのものといえるでしょう。


国産小麦について

  くろうさぎでは小麦粉はすべて国産を使っています。
 国産小麦は外麦に比べグルテン含有量が少なく、パン作りには向いていないと言われてきました。しかしどこの地域においても、地元で獲れた小麦からそれぞれの工夫を凝らして、美味しいパンを作る努力を重ねてきました。グルテンの少ない小麦でも美味しいパンは出来るのです。それどころか、いつも食べる焼きたてのバゲット(フランスパン)の美味しさには、自分でも感動するほどです。
 小麦粒を丸ごと挽いた全粒粉は、私たちの健康に欠かせない沢山の食物繊維やビタミン・ミネラルを含み、酵母の発酵も助けます。小麦中のたんぱく質は熱による変質を起こしやすいので、摩擦熱の少ない石臼で少しづつゆっくりと挽きます。全粒粉は酸化しやすいので、毎日必要な分を挽いて常に新鮮なものを使っています。


天然酵母とイースト

 「酵母」は穀物や果実の表面等に生息し、糖分を分解しアルコールと炭酸ガスを生成する働きをもっています。ワインやビール等酒作りから味噌、醤油、パン作りに至るまで、人間は昔からその働きを利用して、食生活をより豊かにしてきました。
  酵母は自然界に広く生存する生き物であり、人工的に作り出されたたものではありません。パン作りにおける天然酵母もイーストもその点では変わりはなく、違いを挙げれば「天然酵母」が酵母以外の多くの細菌類と共存しているのに対し、「イースト」は工業的に単一のパン用酵母菌種を純粋培養したものといえます。ですから「イースト」は酵母の菌体数が多く、発酵力、膨張力にすぐれています。「天然酵母」は酵母以外の細菌類が作り出す有機酸(乳酸・酢酸・クエン酸・酪酸等)や、芳香性のアルコール類が、イーストには無い独特の風味や香りを生み出し、パンに深い味わいを与えています。
 1850年代に「イースト」が発明され、徐々に使用が増え、高たんぱくの小麦粉、多量のイーストを使った発酵の短い白いパンが大量に作られるようになりました。しかし現在は、消費者の食生活の見直しや多様化などにより、イーストを少量に抑えた、長時間発酵のハード系パンや、天然酵母のパンも多く求められるようになりました。
 「天然酵母」と一口に言っても沢山の種類や特徴があります。
 先に挙げた伝統的な継ぎ種による天然酵母種、レーズンやりんごから起こした果実種、じゃがいもやホップを使ったホップ種、米と麹から起こした酒種等、自家培養の天然酵母から、市販されている安定性があって簡便な天然酵母まで、種々様々です。


くろうさぎの天然酵母

 くろうさぎでは小麦やライ麦、様々な素材のもつ本来の味を生かすために、すべて自家培養の天然酵母を使用し、パンの特性によっていくつかの酵母を使い分けています。
 現在はレーズン種、酒種、サワー種の三種類をそれぞれのパンに合わせて使用しています。
◆レーズン種
 オーガニックのカリフォルニア産レーズンに水を加え、発酵させて作ったエキス種に小麦粉を加えかけ継ぎ、約40時間かけて培養します。完成した種は使い切り、必要な分の種はエキス種から毎日新たに作っています。パンによって小麦全粒粉が20%、50%、100%の三種類の種を、小麦の風味を生かした砂糖や油脂の入らないパンを主に、クロワッサン、デニッシュなどにも使っています。酸味を抑え、酵母の菌体数を増やし、発酵力を強めた種作りに努めています。
◆酒種
 米と米麹と水から培養した天然酵母です。酒作りの技術をパン作りに生かしたもので、明治時代に日本で生まれた天然酵母です。安定性に欠けるため、現在ではほとんど使われず、酒種の使用を謳っているパンでも、殆どがイーストと併用されたものであったり、酒種風味料を加えたものであったり、その伝統も廃れようとしています。
 酒種の特徴として、焼きあがったパンに独特のしっとりした食感と、ほんのり甘い酒種の香りがすることなどがあります。糖度の高い生地でも発酵するため、菓子パンに適しています。酒種のパンとしてはあんぱんが有名ですが、くろうさぎではクグロフやスイート生地、バター折込生地等にも使い、伝統にとらわれることなく、酒種の新たな可能性を広げています。

◆サワー種
 酵母菌と乳酸菌を培養した伝統的な天然酵母です。パン用酵母菌が単一の菌に属しているのに対し、乳酸菌は糖を発酵させその生成物の50%以上の乳酸を作り出す沢山の菌種の総称です。主に乳酸を生成するタイプの菌と、乳酸と共に酢酸を生成するタイプの菌があり、原料、種継ぎ方法、生育環境(温度や給水)等の変化によって繁殖する菌も異なってきます。
 くろうさぎでは、乳酸と酢酸の割合が7対3になるイメージで毎日種を管理、調整しています。
 ライ麦をつかったパン(ライ100、ベルリーナ・ラントブロート)にはライ麦から起したライサワー種、全粒粉のパン(コンプレ100)には小麦全粒粉から起こした全粒サワー種の二種類を使っています。


くろうさぎの求めるおいしいパン

 おいしいパンを作るには、よい材料と、それを生かせる技術が必要です。
 くろうさぎでは国産小麦と、できる限り有機無農薬(オーガニック)や自然農法の材料を使用しています。海外から来るオーガニックのドライフルーツやナッツなどは、涼しい時季に輸送され低温倉庫で保存されているものをこまめに仕入れ、くろうさぎでも低温で管理し早めに使い切るようにしています。どんなに良い素材でも、鮮度や保存状態が悪ければ味の低下は避けられません。
 パンを作る上でいつも心掛けている点は、出来るだけパン生地の給水量を増やし、ミキシングも出来るだけ抑え、じっくりと熟成、発酵させ、しっかりと焼き込むことです。
 水分は空気よりも熱の伝導率が高い為、給水を増やすことにより火通りがよく、口溶けのよいパンに焼き上がります。ミキシングを抑えることにより、生地の酸化を防ぎ小麦の風味を損なうことなく引き出します。生地をしっかり熟成させることにより、国産小麦の特徴でもある良質な澱粉質を酵素の働きで麦芽糖に変え、酵母菌の栄養源として発酵を助け、パンに甘みを与えます。
 そして何より良い発酵が、小麦の風味や香ばしさ、本来のおいしさをひきだす基本です。良い発酵は、よく膨らんだパン生地と良い風味をもたらします。その為には酵母菌をよりよい環境で育て、菌体数を増やす種作りが必要です。分割・成型ではできるだけ生地に負担をかけないよう、やさしく扱います。しっかり焼き込むことにより、パリっと香ばしいクラスト(皮)としっとりしたクラム(中身)に焼き上がり、小麦の美味しさを十全に表現したパンが出来上がります。
 気持ち良く膨らみ、こんがり焼けたパンを、口いっぱいに頬張る幸せな笑顔を思い浮かべながら、より美味しいパンを目指し作り続けていくこと、それが「くろうさぎのパン作り」です。


ラパン ノワール くろうさぎ
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